2018年8月23日木曜日

ゾーニング事業を巡る、知っておくべき「事実」その①

4月から5月にかけて、相次いで二つの風力発電計画の中止が公表されました。まず4月7日に秋田・由利本荘市の鳥海山麓に計画されていた風力発電事業断念が報じられ、続いて5月12日に九州の久留米市と八女市にかけて計画されていた耳納連山の風力発電計画の中止が報じられました。どちらも景観への影響が大きく地元住民の懸念が大きかったようです。

実は風力発電事業については、計画段階はもちろんのこと、施設稼働後もいろいろな形で反対運動が全国で起こっています。

平成29年7月17日のYOMIURI ONLINEの「風力発電の適地探せ…騒音、景観など考慮」という記事に以下の様な記述があります。

村山武彦・東京工業大教授(環境計画)(56)の調査によると、12年までの風力発電計画155件の約4割に当たる59件で紛争が起きていた。野鳥が風力発電施設に衝突する「バードストライク」の影響や、回転する風車の騒音、景観悪化などを理由とする反対運動が多く、うち30件は、計画の中止や凍結に追い込まれたという。

この記事によって、計画全体の4割で紛争が起きていて、その内の半数以上が計画の中止もしくは凍結になっている事がわかります。

紛争などについてはいろいろな原因が考えられますが、大きな理由の一つに、繰り返しこのブログでも述べていますが、最も影響を受ける事業区域近隣の住民への事前の説明や聞き取りが不十分であることが挙げられると思います。

自治体や地域で事業を誘致している場合を除けば、風力発電は環境への影響が大きいだけに、地域住民との間で、なんらかの問題が起こるのはむしろ当然といえるかも知れません。

そのような問題を出来るだけ避けたい、そして風力発電の導入をよりスムーズに拡大したいという考えから生まれたのが、「ゾーニング」によって自治体単位で「エリア」を色分けし、風力発電に適した場所を探し出すという手法です。既に海外では数多くの国でこの手法が導入されていて、風力発電事業を進めるうえで有効であるとされています。

環境省も平成28年度から「風力発電等に係るゾーニング導入可能性検討モデル事業」を立ち上げ、地方公共団体からの公募によってその事業を進めています。ポイントは大きく3つあります。

  1. 風力発電所予定立地では、地域住民等から反対を受ける「環境紛争」が発生しうるのでそれを未然に防ぐためにもゾーニングが有効
  2. 地域(地方公共団体)において、環境面だけでなく経済面、社会面も統合的に評価して、再生可能エネルギー導入を促進すべきエリア、環境保全を優先すべきエリア等のゾーニングを行う
  3. ゾーニングを踏まえた環境アセスメントの手続が円滑に進められることにより、審査期間を短縮するとともに、地域の自然的・社会的条件を踏まえた再生可能エネルギーの計画的な導入を促進する

基本的には風力発電事業を促進するためのものですから、この「ゾーニング」を行うことで「環境紛争のない」、スムーズな事業展開が進められるというわけです。

エネルギーに対する不安のない強靭で低炭素な社会を目指す『浜松版スマートシティ』を掲げる浜松市も、平成29年度のモデル事業に公募し、平成29年3月31日に環境省から選定を受けています。

そして平成29年度と30年度の2ヶ年かけて、浜松市全域(陸上・洋上)を以下のように「ゾーニング」することによって、エリア分けをし、風力発電事業に適した地域を探し出すとしています。このゾーニングの結果は、平成31年3月末までに公表される予定です。

1.まず浜松市全域を下記2つのエリアに分けます。

○保全エリア(自然環境や地形などから風力発電事業は不可なエリア)
○配慮・検討エリア(課題を解決すれば、風力発電事業は可能なエリア)

2.次に「配慮・検討エリア」の中で、様々な自然環境やエリアから居住地までの距離、そして景観などについて個別調査を行います。

3.「配慮・検討エリア」の中から、課題が少ないエリア、また地元関係者の理解が得られる可能性が高い地域を「モデル地区」として設定し(3〜5地区程度)、詳細な調査と風力発電事業導入に関する理解を促進するための「地域勉強会」を開催します。

4.そして、これらの調査結果を総合して、浜松市全域を以下の3エリアに分類します。

  • 保全エリア:自然環境や社会環境の観点から風力発電の立地が望ましくなく、積極的に保全すべき地域。
  • 調整エリア:保全エリア以外の場所で、かつ風力発電の事業性を見込めるが、立地にあたって調整が必要なエリア。
  • 適合エリア:環境・社会面から風力発電の導入に適合したエリア。ただし、導入にあたっては、地域特性を踏まえた課題を明確化する必要がある。

長くなりましたが、ここからが今回の本題です。

5月19日の投稿でも書きましたが、平成29年4月5日に浜松市のエネルギー政策課と自然電力株式会社(以下事業者)との間でうち合わせが行われます。その時のREPORTによると、うち合わせの内容は「主に環境アセスメント法の手続に入ること」と考えられます(下記写真をご覧下さい)。そのREPORTを行政文書公開請求して入手しましたが、ほとんどスミ塗りです。



実はこの時に浜松市から事業者に対して、重要な申し渡しがされています。

「今回の事業計画予定地域はゾーニングにおける<モデル地区>から除外する」

本来であれば、ゾーニング調査は浜松市全域が対象となっていることから、熊地区についても、本来は、他の地区同様に調査を行わなければいけないにも関わらず、既に事業が計画されており、地元も前向きであるのだから、「モデル地区」として扱っても問題無いのではないかと考えてしまったのです(ゾーニングの調査を省くという事です)。

浜松市がこのような「特別な」判断をしたのには、前回の投稿で明らかにしたように、事業者による「熊地区は今回の事業に対して前向きである」という説明が背景にあります。
事業者のこのような説明によって、浜松市は今回の事業を多少の課題があるとしても、調整可能であり、上手く進む案件として扱ってしまいました。

そしてこのような「特別扱い」ともいえる判断をしたにも関わらず、この事が上記のREPORTには残されていないのです!

幸いこの点については、浜松市も事業者も実際のやり取りについて認めているから良いのですが、うち合わせの内容については、「全ての事」に関して記録を残すべきです。

ここでもう一つの疑問が生じます。

どうしてゾーニングの調査結果が出るまで、事業者は環境影響評価の手続の開始を待てなかったのでしょうか? 事業者が先行して計画していたとはいえ、平成29年1月に、浜松市は環境省のゾーニングのモデル事業への応募を明らかにしていました。

そして事業者の営業内容を調べると、事業者にはゾーニング専門の担当者までいる事が分かりました。
自然電力には、国内における風力発電事業の従事経験者や、再生可能エネルギーに関するゾーニングについて学術的な専門知識を持つ社員が在籍しており、(以下略)(資料2:自然電力と徳島県鳴門市、徳島地域エネルギーによる環境省公募「風力発電等に係るゾーニング手法検討モデル事業」の共同提案の採択および調査開始について 2017年1月31日付け自然電力のプレスリリースから抜粋)
またこの鳴門市のゾーニングモデル事業について、同日のプレスリリースには次のような記述もあります。
自然電力株式会社は、徳島県鳴門市および一般社団法人徳島地域エネルギー(所在地:徳島県徳島市伊月町/代表理事:加藤眞志)と、環境省の公募事業である「平成28年度風力発電等に係るゾーニング手法検討モデル事業」に共同提案を行い、2016年8月に採択され、同年12月に調査を開始いたしましたので、お知らせいたします。 
このように事業者は、環境省のゾーニングのモデル事業に共同提案という形で応募するなど、ゾーニングについて熟知(その有効性についても)しているにも関わらず、浜松市によるゾーニング調査を事前に回避する一方で、ゾーニングの有効性を後ろ盾にして事業を進めようとしていました。

平成29年9月に公表された事業計画に伴う環境影響評価方法書で、浜松市が平成25年3月に「浜松市エネルギービジョン」を策定し、そのビジョンを実現するために、エネルギー自給率を高める再生可能エネルギーの導入を推進しているとし、事業者は次のように述べています。
環境省が公募した「平成29 年度風力発電等に係るゾーニング導入可能性検討モデル事業」にモデル地域として選定されている。
 このように、浜松市では風力発電等の再生可能エネルギーの導入を推進しており、早期事業化のための支援等をしている。(「環境影響評価方法書 第2章 対象事業の目的及び内容 2.1 対象事業の目的」)
この文章を普通に読めば、まるで浜松市が今回の事業を「支援」しているかのようです。
しかし実際には、浜松市はあくまで事業に対しては「中立」の立場であり、今回の事業を「推進」していた事実もありません。しかしながらこのような説明によって、今回の事業は浜松市も勧めている、と誤解した人が少なからずいました。

最終的に事業者も、今、浜松市が進めているゾーニングの結果を待って事業を再検討するとしたわけですが、本来であれば、事業者自らがいち早くそれを表明すべきだったと考えます。

正直なところ今回のゾーニングに関しては、浜松市と事業者との間で十分なコミュニケーションが取れていたとは到底思えません。双方が、自分たちにとって都合の良いようにゾーニングと事業計画を利用しようとしていたという見方は、うがち過ぎでしょうか?

次回は、今実際に浜松市が実施しているゾーニング調査の問題点について書きたいと思います。

◎写真で一服
集落を流れる清流。箒木山が水源です。