2018年12月30日日曜日

ゾーニング事業を巡る、知っておくべき「事実」その③

前回の投稿では、熊地区の風力発電候補地として抽出されたエリア(配慮・検討エリア)に係わる浜松市によるヒアリングと、アジア航測株式会社(以下アジア航測)が行った現地調査の問題点(特に水源)について書きましたが、そもそもどのような過程を経て今回のエリアが抽出されたのでしょうか?

浜松市から配布された資料によれば、GISデータ(地理情報システム)を用いて、「自然条件」「社会条件」などを重ね合わせて、風力発電の事業性が見込める地域として抽出したとあります。
陸上に関しては「風車の設定予定位置の周囲300m」を「配慮・検討エリア」とし、全市で計18地区+市境5地区を抽出しています。(平成30年7月2日熊地区地域ヒアリングで配布された資料から。具体的なゾーニングの手法については、前々回の投稿に詳しく書きました。)

15と16が熊地区の検討エリア

またこのエリアの設定についてのもう一つの重要なポイントとなる、風車から住居までの距離の設定については、平成30年1月18日に開かれた第1回浜松市風力発電ゾーニング検討協議会議事録によれば、「浜松市の(風力発電の)ガイドラインでは300mとしている。また、今後の大型化も考えて安全を見て500mとしているが、500m以上も含め、今後検討する。」と浜松市が発言しています。

浜松市が制定したガイドライン(「浜松市風力発電施設等の建設等に関するガイドライン」 平成18年8月10日制定)は10年以上も前に制定されたものであり、その後何度か改定されていますが、風車から住居までの距離については、制定当時と同じく100kw以上の風車発電施設に関して「300m以上」のままとなっています。

現在、全国の数多くの自治体が制定を進めている風力発電に係わる条例では、小型風力発電(小型風車)でさえ、住居から風車までの距離は「300m以上」としている自治体がいくつもあります。

そして協議会の委員からも「住民生活に影響するところだと思うので、慎重に検討していただきたい。」という意見が述べられていました。

私たち自治会もこのエリアの抽出については問題点が多いとして、エリアに隣接する3自治会とNPO夢未来くんまの連名で、7月24日に「熊地区地域ヒアリング(平成30年7月2日開催)で配布された資料にある「配慮・検討エリア(案)の抽出手順」についての意見書」を浜松市に提出しました。

ポイントは大きく3つあります。
  1. 浜松市のガイドラインでは「300m」となっているが、その根拠となっているNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「風力発電導入ガイドブック」によると、NEDOが想定しているのは2,000kW規模の風力発電施設(風車1基)の場合であり、複数基並ぶ事を想定していない。(風車が複数基並ぶ事によって騒音が遠方まで届く事になる)
  2. 浜松市が風車の大型化にも考えて「500m」とした根拠、具体的な風車の出力規模と基数についてを示して欲しい。
  3. NEDOの「風力発電導入ガイドブック」で示されている騒音基準の45dBは「住宅地」の騒音基準であり、山間部の静穏な地域であることを考えれば、40dBを騒音基準と考えるべきである。
この意見書に対する返答は、浜松市からはありませんでした。12月5日の報告会でもこの点について確認しましたが、浜松市としてはゾーニングに反映して欲しいという地元の意見として受け止めていて、特に返答する必要はないと考えていたそうです。

そして報告会の質疑応答を通して次の事が明らかになりました。
  1. 浜松市が想定している風車の大型化は2,500kW相当の風車であること。
  2. 風車1基の場合の騒音をシュミレーションしてエリアを抽出したこと。
  3. 騒音基準を45dBとしていること。
まず大型化についてですが、現在の風車の大型化(3,000kWや4,500kWなど)を考えた場合2,500kWが妥当かどうかは甚だ疑問です。この点について浜松市の説明は、天竜区の急峻な地形や、運搬用林道などの整備を考えると3,000kW以上の風車の設営は難しいのではないかという事でした。しかし今後もFIT法の買い取り価格が安くなることなども考えると、効率的な風力発電計画を考えた場合、風車のさらなる大型化は避けられないのではないでしょうか?

次に風車複数基でシュミレーションすべきではないかという意見に対しては、エリアに何基風車を建てられるのかは事業者の計画次第なので、具体的な複数基のシュミレーションは難しいという説明でした。しかしその場合でも、例えば1基の場合は「500m」、5基の場合は「800m」、10基の場合は「1,000m」というようなパターン化は出来たはずです。そもそも風車1基では事業が成り立つわけがなく、複数基を想定したものでなければ意味がありません。

その一方で、浜松市から意外な発言が飛び出しました。

各エリアについての調査報告会を踏まえて、来年2月に開かれる予定の第4回浜松市風力発電ゾーニング検討協議会では、風車の大型化が「2,500kW」で十分なのかどうかも含めて、設定した「500m」について再度検討するというのです。

一体どういうことなのでしょうか?
報告会で示されたエリアは一体何のためのエリアだったのでしょうか?

浜松市は具体的な明言を避けましたが、風車から住居までの距離を「500m」ではなく、それ以上離した数値で再度エリアの抽出を行うようです。

もしこれが本当だとしたら、浜松市は「風車の大型化と複数基配置の場合についての検討が不十分だった」ことになります。またどうして「報告会の最初に」この事についての説明がなかったのでしょうか?

疑問だらけです。

結局報告会は予定の1時間を大幅に超えて、2時間近くに渡って激しい議論が交わされました。

その結果、来年2月に開かれる風力発電ゾーニング検討協議会の前に、熊地区のエリアについては、再度報告会と説明会を開催するという事になりました。

そしてその後の検討協議会でそれぞれのエリアについての課題がまとめられ(浜松市の説明によると「カルテ作り」)、3月末までに発表されるゾーニングの最終報告のもととなるカルテが作成される予定です。

今回の報告会に参加して実感したのは、実際に風力発電からの影響が予想されるところに住む私たちと、ゾーニングを通して風力発電事業を誘致したいとする浜松市の間には、大きな溝があるということでした。地域の情報を少しでも多く集め、地元住民の人たちの意見を汲み取ろうという姿勢が、浜松市とアジア航測には足りなかったと思います。

エリアを抽出する条件として、風車複数基でシュミレーションする必要があるのではないかと問いただした時、浜松市から次の様な説明がありました。「(エリアを抽出する)データベースの風車の大きさや数のバロメーターを変えればいくらでも数値が出て来てしまうので、まずは1基の場合で環境省の指針である500mに当てはめてみて計算させて頂いた。」

いくらでも数値が出て来てしまうからこそ、「慎重に検討する必要」があったのではないでしょうか? 浜松市は私たちの生活をもっと尊重しつつ、ゾーニングを行うべきだったのではないでしょうか?

「机上の計算ばかりしている。現地を歩くべきだ。」という声が複数挙がったのも当然だと思います。

追記:報告会の質疑応答では、浜松市が騒音基準としている「45dB」についての妥当性については言及出来ませんでした。次回の説明会ではしっかりと協議したいと思います。

補足資料:風車の出力と大きさについて
・小型風車 出力19.5kW/ローター(羽)直径13m/ハブ(ローターを支える部分)の高さ20m/騒音パワーレベル52dB
・大型風車 出力2,000kW/ローター直径80m/ハブの高さ78m/騒音パワーレベル104.4dBA
・大型風車 出力3,000kW /ローター直径122m/ハブの高さ136m/騒音パワーレベル104.5dBA

*風車が大きくなり(高くなり)、騒音パワーレベルが大きくなればなるほど、遠方にまで騒音の影響が出ることになります。
◎写真で一幅◎
12月22日の夜、月と雲が織りなす幻想的な風景

















2018年12月24日月曜日

ゾーニング事業を巡る、知っておくべき「事実」その②

12月5日(水)の夜に地元のくまふれあいセンターで、現在浜松市が行っている「風力発電等に係るゾーニング導入可能性検討モデル事業」によって抽出された、熊地区の風力発電の候補地となりうるエリアについての「調査結果報告会」が開かれました。

現地調査と報告を行ったのは、浜松市から今回のゾーニング調査の委託を受けているアジア航測株式会社(以下アジア航測)です。

調査報告会開催の通知

報告の内容は大きく次の3点でした。
(1)7月2日に行われた熊地区地域ヒアリングの内容
(2)現地調査報告結果
  • 地すべり・崩落地に関する現地調査報告(8月2日〜3日)
  • 水源に関する現地調査報告(8月2日〜3日および8月7日)
  • 景観に関する現地調査報告(8月2日〜3日)
(3)ゾーニングに係わる今後の方針とスケジュールについて


まず7月2日に行われたヒアリングの問題点について述べたいと思います。
ヒアリングの目的は、風力発電事業への疑問や心配点などについての意見聴取と、(2)の現地調査を行うための情報の収集となります。

しかしながら7月2日に行われたヒアリングは、熊地区の自治会長のみの出席で、ヒアリング「当日」に資料を配付し、ゾーニングについての説明を行い、その場で現地調査のための情報を集めるというやり方でした。これでは調査に十分な情報を集められるはずがありません。

事前に各自治会長に資料を配付し、ヒアリングの意図を説明し、地元住民からの情報を集める時間を設けてからヒアリングを行うべきでした。

上記の調査期間を見ればわかるように、アジア航測は8月2日と3日の二日間で、この広いエリアの調査を完了した事になっています。地元の詳しい人のガイドなしに、たった二日間で地すべりや水源の調査などを行った結果、報告会で数多くの問題点が指摘される事になります。

熊地区の風力発電検討エリア(配布された資料から)

まずアジア航測は、ヒアリングで示された20数カ所の水源の内の一部(数カ所)しか調査していなかったうえに、その水源がそれぞれの集落にとって重要な水源なのかどうかも確認していませんでした。

また柴・沢丸の「簡易水道」(これも間違っていて、本当は小規模水道施設です。簡易水道と小規模水道施設では施設管理者が違うので、明確に分けないといけません)の水源が、本当は地下水であるにも関わらず、何故か夏に子供たちが遊ぶプールとなっていて、驚いたというか呆れてしまいました。また地下水の水源については「調査対象外」として、調査報告ではその影響については触れられていません。

プールが水道水源に!?(配布された資料から)

そして水源に関しての調査結果として示されたのが、「尾根付近の地形改変による水源への影響は比較的少ないと想定」というものでした。杜撰ともいえる調査から導き出されたこの結果について、どう納得しろというのでしょうか?

結局報告会の質疑応答の中で、アジア航測の担当者も「水源の調査に関しては不十分でした」と認めざるをえなくなりました(後日、再度水源を地元の代表者らとともに確認し、調査しなおしました)。

また景観についての現地調査も、広い熊地区でたった1カ所(!)を調査(熊小学校)したのみで、その選定理由が「国土地理院の地図から、この地区の中心的存在と判断した」からだそうです。

熊地区には、環境省の交付事業として整備された東海自然歩道や縄文時代中期の遺跡などもあり、また地元の人たちが大事にしている風景が沢山あります。それらを知ろうともしないで調査報告を「平然と」出してくる姿勢が信じられません。

アジア航測は自社で保有する航空機と最新鋭のセンサーによる空間情報の収集・解析を専門としていて、環境省が行っている風力発電に係わるゾーニング調査についても全国の複数の自治体から調査を委託されています。にもかかわらず、この現地調査の杜撰さはどういう事なのでしょうか?

今回の現地調査報告を聞いた限りでは、アジア航測が行った調査結果を信用する事は到底出来ません。

もちろんゾーニングに関する調査では、風力発電事業にともなう環境影響評価(環境アセスメント)で行われるような詳細な調査をする必要がない事は理解しています。しかしながらそのベースともなる調査がここまで杜撰では、ゾーニングそのものの「信頼性」にも関わってくるのではないでしょうか?

そしてもう一つの重要なポイントとなる、風力発電に適したエリアを抽出する基準、具体的には風車から住居までの距離の設定についても、今回の報告会では大きな問題となりました。

このエリア抽出の問題点については、次回の投稿で詳しく触れたいと思います。

◎写真で一幅◎
紅葉の中、年末に向けて道路清掃をしました