2018年5月26日土曜日

風力発電の事業認定を巡る、知られざる「事実」

今回は、事業者である自然電力株式会社と、事業者に声をかけ今回の事業を誘致しようとした地元林業企業の関係について書く予定でした。

しかし先週から今週にかけて、私たちが驚くような事実が明らかになりました。

事の発端は、Twitterのツイートでした。
小型風力発電のFIT法(固定価格買取制度)の適用を受けるための事業認定が、風車一基毎に細かく分かれているという内容で、エネルギー資源庁のHPでそれを確認する事が出来るという事を知りました(注1)。(FIT法については、また別の投稿で触れたいと思います)

今回の事業については、4月7日に開かれた経済産業省の環境影響評価顧問会に提出された自然電力株式会社の資料(注2)から、既にこの事業について産業経済省の認定が済んでいる事は分かっていたので(2017年7月28日に申請、9月29日に認定取得)、実際にエネルギー資源庁のHPで、誰が、どの住所で認定を受けたのかを調べてみました。
エネルギー資源庁のHPで公表されているデータは下記の様になっていました。

■設備ID:DZ99022C22
■発電事業者名:自然電力(株)
■代表者名:磯野謙
■発電設備区分:風力
■発電出力(kw):26,000.0
■発電設備の所在地/代表住所:静岡県浜松市天竜区熊字箒木地蔵前727-6他、29の住所

ここで驚くべき事が判明します。

発電設備の所在地として認定された住所(全部で30)に、私たち自治会の住民も含め、この事業に反対している人たちの土地がいくつも含まれていたのです!

どうしてこんな事になっているのでしょうか?

これらの土地の権利者の方々は、事業者から事前に何の説明も受けていません。当然のことですが、事業者との間で譲渡/賃貸借等の契約も結んでいませんし、事業者に対して将来、土地の譲渡/賃貸借等を認める意向もありません。

経済産業省の再生可能エネルギー推進室がリリースしている「再生可能エネルギー発電事業計画の認定における設備の設置場所について(平成30年4月2日改訂)」(注3)では、認定申請において、次のように設備(この場合は風力発電)の設置場所の所有権を確認出来る書類の提出を求めています。


(1)地上に設置する場合
①土地の登記簿謄本(全部事項証明書)(申請日より3か月前から当該申請日までの間に発行された原本で法務局発行のもの)
②土地の登記簿謄本(全部事項証明書)に記載される権利者と設置しようとするも者が異なる場合
・売買契約書の写し、賃貸借契約書の写し、地上権設定契、権利者の証明書(参考様式はこちら)等※
・契約当事者双方の印鑑証明書(、申請日より3か月前ら当該までの間に発行された3か月以内の原本。ただし太陽光10kW未満の場合を除く。)


事業者は、「売買契約書の写し」もしくは「賃貸借契約書の写し」、または「地上権設定契」もしくは「権利者の証明書」の提出が必要になるわけです。
しかし事業者は、今回の認定申請時に②で必要とされている書類は提出していません。それなのに、何故、認定されたのでしょうか?

実は上記の申請条件が、事業者が申請した平成29年7月の時点では、②の書類の提出が必要ありませんでした。

これは驚くべきことです。

つまり、土地の権利者の意向に関係なく、事業認定の申請が出来たのです。
もちろん認定後3年以内に、「売買契約書の写し」もしくは「賃貸借契約書の写し」を提出する必要があり、提出出来ない場合には認定が取り消されるという条件が付いていたとは言え、明らかに、事業者が事業を進めやすい仕組みになっていました。

直接、事業者が事業申請書類を提出した関東経済産業局にも電話で確認して、次のような説明を受けました。

「平成30年4月2日以前の申請に関して、出力20kw以上の風力発電計画については、委任状もしくはそれに類する書類の提出がなくても、一旦認定し、3年以内に土地の譲渡もしくは賃貸借契約の写しを提出すればよく、今回の申請は法的には問題ない。ただし、3年経っても正式な書類が提出されない場合には、認定は取り消しになる」

今回の認定申請に関しては法律的には何ら問題はありませんが、事業認定についての法律である「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法施行規則」には、この事業認定の申請の際には、以下の書類を添付しなければならないと明記されています。

「当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電設備を設置しようとする場所について所有権その他の使用の権原を有するか、又はこれを確実に取得することができると認められるための書類

事業者が申請した時点(平成29年7月)では、認定後事業者に、権利を取得していない土地に関して、「これを確実に取得することができると認められるための書類」を提出するまでに「3年の猶予」が与えられていたという事になります。

事業者は、どうしてなかば強引とも思えるやり方で、急いで認定申請をしたのでしょうか?

それにも、現在の再生可能エネルギーをビジネスとして成り立たせている「固定価格買取制度(FIT法)」(簡単に言うと、発電した電力を一定期間決まった金額で買い取ってもらう事が出来る)が絡んでいます。実は現在、「固定価格買取制度」は年々買取価格が下がってきています。また「固定価格買取制度」そのものが無くなる可能性もあると言われています。

事業者は、「固定価格買取制度」の条件が良い内に早く認定を得たかったのです。そしてその申請のために、土地の権利者に無断で、勝手に住所を利用したのです。

これが自然電力株式会社の事業の進め方です。

法律的には問題ないとしても、このような事業の進め方をする会社を、どうして信用出来るでしょうか?

補足:気になるのは、ほぼ同時進行で事業計画が進んでいる(仮称)鳥取市青谷町風力発電事業です。エネルギー資源庁のHPで確認すると、こちらの事業についても既に事業認定がされています。認定申請に関しては、同じようなやり方をしている可能性があります。

注1:再生可能エネルギーの電子申請
注2:(仮称)浜松市天竜区熊風力発電事業 環境影響評価方法書 補足説明資料

◎ 写真で一服
5月6日のお茶摘みの時に撮影しました。
瑞々しさと、力強さを感じるお茶の新芽は、本当に綺麗です。



2018年5月19日土曜日

風力発電事業の経緯について

今回は、自然電力株式会社が計画している(仮称)浜松市天竜区熊風力発電事業の経緯をまとめます。
細かい項目も多く、少し長くなりますが、重要なポイントがいくつも含まれています。
  • 2016年
    • 11月18日 自然電力株式会社(以下事業者)が浜松市を訪れ、今回の事業計画の検討開始を報告。
  • 2017年
    • 1月11日 環境省が「平成29年度風力発電等に係るゾーニング導入可能性検討モデル事業」(以下ゾーニング)(注1)に係るモデル地域の公募を開始。
    • 2月23日 浜松市が上記ゾーニングモデル事業へ応募申請。
    • 3月31日 環境省が上記事業に浜松市を選定(全国で6地域の地方公共団体が選ばれています)。
    • 4月5日 事業者と浜松市の話し合いにおいて、自然電力株式会社が環境影響評価法の手続(注2)に入る事を表明し、また浜松市から自然電力株式会社に対して、上記ゾーニングモデル事業との兼ね合いについての説明があった。
    • 5月31日 事業者が「(仮称)浜松市天竜区熊風力発電事業 計画段階環境配慮書」を 経済産業大臣、静岡県知事、浜松市長へ送付。また配慮書についての公告と縦覧が開始される(6月30日まで)。
    • 9月15日 事業者が「(仮称)浜松市天竜区熊風力発電事業 環境影響評価方法書」を 経済産業大臣、静岡県知事、浜松市長へ送付。また方法書についての公告と縦覧が開始される(10月16日まで)。
    • 10月12日 熊地区で方法書の説明会が実施される。
  • 2018年
    • 1月12日 柴・沢丸自治会で個別の説明会が実施される。
    • 3月14日 方法書に対する浜松市長意見が提出される。
    • 4月13日 方法書に対する経済産業大臣の勧告が出される。
    • 4月20日 事業者が本事業に関する環境影響評価の手続を、ゾーニングの調査結果が出るまで一時停止する事を表明。ゾーニングの調査結果は、2019年3月末までに浜松市が公表予定。

このように大規模な風力発電事業に関しては、専門的で複雑な手続が行われる事になります。

そして繰り返しになりますが、2017年10月12日の説明会まで、当自治会をはじめ、事業予定区域に隣接する自治会には、事前の事業についての説明や聞き取り調査等は一切ありませんでした。

ここで「ゾーニング」という聞き慣れない言葉が出て来ます。当初は私たちも、何のことなのかさっぱり分かりませんでした。詳しくは下記の(注1)を参照して欲しいのですが、簡単に言うと、調査によって「風力発電に適したエリア」を探し出すというものです。

実はこのゾーニングについて調べていくうちに、私たちは事業の妥当性への疑問、そしてゾーニングと事業の関係性に不自然な点がある事に気がつきました。

次回の投稿では、いかに今回の風力発電事業が、「裏付けのない情報」と「事業者の杜撰な聞き取り調査」によって立ち上げられたのかを明らかにしたいと思います。

(注1)浜松市が応募した「平成29年度風力発電等に係るゾーニング導入可能性検討モデル事業」とは、平成29年度と30年度の2年にかけて、浜松市の陸上と洋上エリアを対象として、環境面だけでなく経済面、社会面も統合的に評価をし、風力発電事業の可能性のあるエリアの抽出と、そのエリアにおける課題の明確化を図り、風力発電について、地域の合意形成がなされた「推進エリア」を設定するための事業。

(注2)環境影響評価法の手続とは、環境省が定めた環境影響評価法に基づき、事業の実施前に、「事業者自らが調査し」、事前に環境への影響を調査・予測・評価することによって、事業による環境への影響を少なくするための対策を講じるための手続。「配慮書の作成」→「方法書の作成」(現在ここまで進んでいます)→「アセスメント(調査・予測・評価)の実施」→「準備書の作成」→「評価書の作成」→「報告書の作成」を経て、事業の認可の可否が判断されます。事業者は、この手続に約3年を予定しています。

◎ 写真で一服

5月6日に行われた毎年恒例の品評会用お茶摘み。
この写真の中央付近の山の上に、風車が見える事になります。
中央に小さく見える扇風機みたいなものは防霜ファンといって、
お茶の新芽に霜が降りてダメージを与えるのを防ぐためのものです。

2018年5月14日月曜日

風力発電事業の規模の大きさに驚く!

まず最初に私たちが驚いたのは、今回の風力発電事業の規模の大きさでした。

自然電力株式会社が公表した事業規模を図にしてみました。
文字と数字だけだと掴みにくいですが、こうしてみるといかに大規模なのかがよく分かります。



特に注目して欲しいのは、風車の基礎部分の大きさです。
排出される大量の土砂は、事業予定区域の谷や沢を埋め立てる事で処理されます。
そして大量のコンクリートを流し込み、予定では20メートルを超えるパイル(杭)を一基あたり8本も打ち込むそうです。

実は事業予定区域の直ぐ側には、隣接する複数の自治会の水道水源が多数存在しています。それは湧き水だったり、沢の水だったりします。私たちの自治会の水源は、事業予定区域の東側がら湧き出ている地下水です。
大量の土砂や打ち込まれるパイルが、水道水源に影響を与えない保証はどこにもありません。

しかし環境影響評価方法書で示された水環境の調査では、最も重要なこれらの水源についての調査が何故か選ばれていませんでした。

どうしてこのような事になってしまったのでしょうか?
私たちの生活にとって最も大切なものの一つである、水環境への影響を調べない調査では意味がありません。

前回の投稿(2018年4月30日)でも書きましたが、自然電力株式会社は、私たちに事前の聴き取り調査を行うことなく事業計画をたちあげました。
山に囲まれた私たちのような集落では、生活環境が都市部とは全く異なります。
繊細で複雑な自然環境を理解しようとせずに、このような大規模な事業を進めようとする事業者を、どうして信用出来るでしょうか?

次回の投稿では、今回の事業の経緯についてまとめてみたいと思います。