2021年4月5日月曜日

(仮称)浜松市天竜区熊風力発電事業が中止になりました!

ご報告が遅くなってしまいましたが、2021年2月18日付けで、(仮称)浜松市天竜区熊風力発電事業(以下事業)について、事業者である自然電力株式会社(以下事業者)から事業を中止する旨の文書が熊地区連合自治会及び浜松市担当部署宛に送付されました。

文書の内容は下記の通りです。

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令和3年2月18日 

自然電力株式会社

代表取締役 磯野謙 

 

(仮称)浜松市天竜区熊風力発電事業の中止について

 自然電力株式会社は、(仮称)浜松市天竜区熊風力発電事業(以下、「本事業」)につきまして、本日付で事業を中止することを決定いたしました。これに伴い、本事業に係わる電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(以下、「再エネ特措法」)に基づく事業計画の取り下げを申請いたしました。

 地域の皆さまおよび関係者の皆さまにおかれましては、これまでに多大なご指導、ご協力をいただきましたことに厚くお礼申し上げます。

●中止の理由

 平成29年9月に再エネ特措法に基づく認定を受けた本事業計画につきまして、平成31年3月に浜松市が公表した「浜松市風力発電事業ゾーニング計画書及びゾーニングマップ」を踏まえた再検討を進めてまいりましたが、十分な事業性を担保した事業計画の立案が極めて困難であるという結論に至りました。

(補足資料)

事業中止までの経緯

2017年1月    事業の検討開始

2017年4月    風況観測塔設置による風況観測開始

                    浜松市による風力発電ゾーニング調査事業開始

2017年5月    環境影響評価手続開始

2017年9月    環境影響評価方法書の公告縦覧

                    再エネ特措法に基づく設備認定(後の事業計画認定)を取得

2018年4月    猛禽類調査を除く環境影響評価手続を停止

                        ●環境調査を実施する以前において、住民の方々への説明や聞き取りが不十                           分であったことを踏まえ、浜松市による風力発電ゾーニング調査事業を踏ま        えた上での事業の再検討が必要であると判断

2019年3月    浜松市による「風力発電ゾーニング計画書及びゾーニングマップ」公表

2020年9月    再エネ特措法に基づく事業計画認定に係わる事業実施区域縮小を変更申請

2020年12月    関東経済産業局より変更申請は受理しないとの回答

                        ●事業実施区域縮小した場合の事業実現性が懐疑的との指摘

                    事業中止に向けた対応開始

                        ●関東経済産業局に指摘を受け、再検討した結果、「浜松市風力発電ゾーニ        ング計画書及びゾーニングマップ」によるAエリア(法規制や社会条件等によ        り立地が困難なエリア)を十分に回避した形での事業実施区域を再設定した        場合、十分な事業性を担保した事業計画の立案が極めて困難であると判断

2021年2月    再エネ特措法に基づく事業計画認定の廃止を届出

                    (以後、事業中止に関する手続を順次対応予定)

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補足資料に書かれている2021年2月以降の手続きについては、まだ対応が遅れているようです。こちら進捗状況についてはまた分かり次第公表して行きたいと思います。

当自治会としては、事業中止になった理由についての説明はこれでは不十分だと思いますが、いずれにしても、2017年から始まった事業が「中止」になりました。私たちが訴え続けてきた事業に関する問題点や、事業による環境への影響の大きさなどが反対運動の中で明確になった事が大きかったと思います。

その一方で、2019年3月の浜松市による「風力発電ゾーニング計画書及びゾーニングマップ」公表以降の事業者の事業に対する姿勢には疑問も残ります。

特に事業者が最後まで事業計画認定(FIT認定)にこだわったことにより、2020年9月から12月にかけて、私たちも改めて反対の意志表示をし、交渉を続けざるを得なくなりました。最終的には事業者が中止の判断をする事になった訳ですが、私たちの再三の反対の意志表示にもかかわらず、自らの都合によって事業継続を図った事業者に対しては不信しかありません。

2019年3月以降の経緯についてはまた改めて詳しく書きたいと思いますが、担当者が繰り返し述べていた「地域住民の意思を尊重します」という言葉の重みを、事業者にはよく考えてもらいたいと思います。

2019年4月13日土曜日

ゾーニング結果が発表されました

■ゾーニング事業の最終結果発表
4月1日に浜松市のHPで「浜松市風力発電ゾーニング計画書及びゾーニングマップ」が公表され、平成29年度から2ヶ年にわたるゾーニング事業の結果が明らかになりました。

ゾーニングをする事によって、風力発電に適したエリア(地区)を見つけ出すという事業だったわけですが、前回の投稿でも触れたように、現時点では陸上、洋上共に風力発電計画を進めるにあたって問題がないとされる「C」エリア(推進エリアという事です)は存在していません。

このエリア設定については、「ゾーニング計画資料編」で次の様に述べられています。

 候補地のうち、立地には課題があり調整が必要であるが、課題をクリアできれば、立地が可能となり得るエリアをBエリア、現時点で、立地に重大な課題は認められず、地元の調整に大きな支障が見込まれないエリアをCエリアと設定した。
 今回のゾーニング検討の結果、浜松市内では現時点でCエリアに該当する地区はなく、すべてBエリアとした。

浜松市にはこれも「一つの重要な結果」として受け止めて欲しいと思います。

陸上風力ゾーニング地区別カルテ(No.14)」が当自治会に隣接する地区となります。資料によれば、風況や稜線など地形的判断から、ここには2000kW級風車「8基」を建てる事が出来るとしています。

そして地区の課題として「水源」「騒音・低周波」「景観」などについて、さらに地域住民の意見を加えた形で下記のようにまとめられています。


しかしながら再三地区の課題として、将来にわたって重要な問題であると主張してきた「過疎化」についての意見は、取り入れてもらえませんでした。意外だったと同時に、中山間地における過疎化問題を、浜松市が真剣に考えていないのではないかと疑ってしまいます。

熊地区も「過疎化」対策として積極的に移住者を迎える事業を行っています。移住希望者にとって魅力的な地区であるためには、豊かな自然と環境は絶対条件です。

風力発電施設が近くにある地区に、移住してくる人がいるでしょうか?

浜松市にはこの問題について、もっと真剣に考えてもらいたいと思います。

■ゾーニング結果の活用について
今回のこのゾーニング結果を踏まえて、現在事業が一時停止になっている自然電力株式会社がどのような対応をしてくるのかはまだ不透明です。報告会にも参加していなかったようで、浜松市にも現時点ではゾーニングに関しての問い合わせ等はないそうです。

そしてもうひとつ重要なポイントとなるのが、このゾーニング結果が将来にわたってどのような影響をもたらすのかという点です。

浜松市の資料には、今回のゾーニング結果の活用について次の様に述べられています。

4.2 ゾーニング計画の活用
本ゾーニング計画は、市内における無秩序な風力発電の開発を回避し、適正な導入を誘導するため、風力発電に関する地域特性や地域課題、地域住民の意向等を示したものである。発電事業者が、市内での風力発電を検討する際に、本ゾーニング計画を参考に発電事業を立案することにより、環境保全や社会条件、さらには、地域の意向に即した計画となり、環境紛争の回避につながる。(傍線当ブログ) 
(中略)
浜松市では、市内において風力発電の施設及び施設建設に伴う送電線等の付帯設備の建設を行う事業者が遵守すべき事項や調整手順を明らかにした「浜松市風力発電に関するガイドライン」を平成 18(2006)年に策定し運用を行っている。住宅等からの離隔距離の設定等、今回のゾーニング結果を「浜松市風力発電に関するガイドライン」に反映させる。(傍線当ブログ) 
今後の風力発電事業に対する市の対応としては、本ゾーニング計画を踏まえ、浜松市風力発電に関するガイドラインに基づき、発電事業者との調整を進めることにより、環境と住民生活に配慮した、地域と調和の図られた風力発電の導入を促進する。(傍線当ブログ)

つまり事業者があらたな風力発電計画を検討する際には、今回のゾーニング結果を十分考慮する必要があり、浜松市としてもゾーニング計画や改訂される風力発電に関するガイドラインに基づいて事業者と調整を行うとされています。

しかしここで注意しなければいけないのは、今回のゾーニング計画も浜松市のガイドラインにも「法的拘束力」はありません。

つまり、事業者がこれらを無視して事業計画を検討する可能性を排除できません。

実際にゾーニング事業を行った長崎県の西海市では、風力発電を推進するエリアではないところに、それを承知で事業者が風力発電計画を立て、反対運動が起こっています。

西海市で風力発電反対の団体設立。長崎県内」からの引用です。
今回の風力発電所の建設計画は「適地エリア」に位置していますが、「候補エリア」や「事業推進エリア」には入っておらず、西海市は、「計画されている場所は市が建設を推進する地域ではない」としています。 
西海市では、「風力発電を地域振興につなげたい」としていますが、発電所の建設にあたっては「住民の意見を尊重していく」としています。
西海市のゾーニング計画については下記リンクから参照できます。
風力発電等に係るゾーニング計画を作成しました!」(西海市のHPから)

もし同じような事が浜松市で起きたら、浜松市はどのような対応をするのでしょうか? 「法的拘束力」はないにしても、ゾーニング計画を公表した責任を重く受け止め、事業者にきちんと説明し、指導していく姿勢を示してもらいたいと思います。

紙漉きの原料となるミツマタの可愛らしい花です。

2019年3月12日火曜日

ゾーニング事業を巡る、知っておくべき「事実」その④

浜松市が平成29年度から実施している風力発電に係わるゾーニング事業も、ゾーニングマップの最終結果の公表に向けていよいよ大詰めを迎えています。

昨年12月5日に開催された熊地区でゾーニングの現地調査報告会については前回の投稿で詳しく触れました。その後再度水源などについての現地調査を行い、年が明けた今年1月27日に2回目の現地調査報告会が開催されました。

前回の調査はではあまりに杜撰だった、水源調査や景観に関する調査報告の内容もかなり改善されていました。

また最初の説明会の時に議論を呼んだ風車から住居までの距離については、当初の500mが850mに変更されました。2000kW級の風車(高さ約120m)4基が300m間隔で並んだ事を想定して算出されていて、ようやく現実的な条件設定になりました。

地区の課題(浜松市がカルテと呼んでいるもの)についても、私たちの意見をかなり取り入れた形で公表してもらえる事が分かりました。

そして2月15日に、浜松市はそれぞれのエリアの条件や課題をまとめた「浜松市風力発電ゾーニング計画書(案)及び風力発電ゾーニングマップ(案)」をHPで公表し、意見を募集しました。


陸上風力に関しては全部で19のエリアが抽出されていて、それぞれのエリアの課題点(カルテ)が明らかにされています。地区別エリアBのNo.14が熊地区です。

浜松市全域(陸上・洋上)を対象として風力発電に適したエリアを探し出すゾーニング事業でしたが、現時点では風力発電施設の導入を「推進するエリア」(ゾーニング案ではCエリア)は無いことも分かりました。

熊地区の地域意見と、地区住民からの意見が以下の様にまとめられています。
(情報の最後に当ブログ名が記載されていて、市の担当者もこのブログを読んでいるいることが分かりました!)


しかしその一方で、風力発電施設が出来る事で進む事が予想される「過疎化」や、公表されるゾーニングマップについて浜松市がどこまで責任を負うのかといった点については不明なままです。当自治会としてゾーニングマップ(案)に対して下記意見を3月2日に提出しました。

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【風力発電ゾーニング計画書(案)及び風力発電ゾーニングマップ(案)について】の意見書

今までも繰り返し当自治会として風力発電計画への反対意見を述べているが、天竜区の急峻で決して強固とはいえない地盤の山々の尾根、及び山頂に風力発電施設を作る事は決して容認出来ない。この事をあらためて表明する。

緑の山々は私たちの命の水を育むものであり、また遠方から自然を求めて尋ねてくる人々にとっても大事に守るべき宝である。

地球温暖化そして気候変動による深刻な影響を考えるとエネルギーの脱炭素化を急ぐ事は必要だが、再生可能エネルギーはそれを進めるための「一つの選択肢」であり、今回のゾーニング調査における浜松市との意見交換や、全国で頻発している風力発電計画への反対運動を踏まえると、熊地区への風力発電施設はその選択肢とはなりえない。

今回公表された浜松市風力発電ゾーニング計画(案)を見ると、陸上・洋上ともに現時点では「Cエリア」に該当するエリアはないとなっている。これも今回のゾーニング調査によって明らかになった「一つの重要な結果」であり、今後の再生可能エネルギーの導入拡大については、市民の理解をえられるような方向性の検討、そして分かりやすい形での情報提供や情報公開を要望する。

また3月末までに公表されるゾーニングマップに対する、浜松市の責任の所在が曖昧である。ゾーニングマップに法的拘束力はない。もし今後あらたな民間事業者が熊地区に風力発電計画を立ててきた場合、浜松市はどのよう対応をするのかが不明である。手続きに問題が無ければ、浜松市は計画を受けざるをえなくなる。「計画を受ける前」に、熊地区の自治会に対しての情報提供や協議の場を設けるなど、浜松市として何らかの対応策を考えておくべきである。
 
■「地域意見のまとめ」についての意見
1. その他の項目の下記文章の訂正をお願いする。
「環境影響評価の調査が中断している」これは「停止」が正しい。

2. 熊地区(に限らないが)の最大の問題は過疎化である。熊連合自治会は浜松移住センター(浜松市市民協働・地域政策課)が行っている”Welcome集落制度”に登録されており、地域で積極的に移住者のサポートを行っている。しかし風力発電施設が出来た場合、その影響により当地区の生活環境が悪化する事は避けられない。その結果当地区への移住者が減る可能性、そして現在居住している人々が他地域へ移住してしまう事も考えられる。例えば当自治会に移住して来た2家族は、もし風力発電施設があったら当地区へは移住して来なかったと述べている。

■「地域住民から寄せられた各種意見・情報」についての意見
1. 風車に設置が義務づけられている航空障害灯が夜間の景観を損ねる。

2.  20年後の事業撤退の際に風車の土台などがそのまま「負の遺産」として放置される。

3. 一度改変されてしまった自然は二度と元にもどらない。事業撤退の際には「原状復帰」となっているが、現実には不可能である。

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意見募集は3月2日に終了し、この後第5回検討協議会で最終調整が行われ、今月末までに最終結果が公表される事になります。
浜松市はその最終結果を一般公開という形で発表し、HPでいつでもアクセス出来るようにする予定です。

最終的にどんなゾーニングマップが発表になるのか、そしてその結果をふまえて、環境影響評価が停止となっている自然電力株式会社がどのような方向性を示すのか、大きな山場を迎える事になります。





2018年12月30日日曜日

ゾーニング事業を巡る、知っておくべき「事実」その③

前回の投稿では、熊地区の風力発電候補地として抽出されたエリア(配慮・検討エリア)に係わる浜松市によるヒアリングと、アジア航測株式会社(以下アジア航測)が行った現地調査の問題点(特に水源)について書きましたが、そもそもどのような過程を経て今回のエリアが抽出されたのでしょうか?

浜松市から配布された資料によれば、GISデータ(地理情報システム)を用いて、「自然条件」「社会条件」などを重ね合わせて、風力発電の事業性が見込める地域として抽出したとあります。
陸上に関しては「風車の設定予定位置の周囲300m」を「配慮・検討エリア」とし、全市で計18地区+市境5地区を抽出しています。(平成30年7月2日熊地区地域ヒアリングで配布された資料から。具体的なゾーニングの手法については、前々回の投稿に詳しく書きました。)

15と16が熊地区の検討エリア

またこのエリアの設定についてのもう一つの重要なポイントとなる、風車から住居までの距離の設定については、平成30年1月18日に開かれた第1回浜松市風力発電ゾーニング検討協議会議事録によれば、「浜松市の(風力発電の)ガイドラインでは300mとしている。また、今後の大型化も考えて安全を見て500mとしているが、500m以上も含め、今後検討する。」と浜松市が発言しています。

浜松市が制定したガイドライン(「浜松市風力発電施設等の建設等に関するガイドライン」 平成18年8月10日制定)は10年以上も前に制定されたものであり、その後何度か改定されていますが、風車から住居までの距離については、制定当時と同じく100kw以上の風車発電施設に関して「300m以上」のままとなっています。

現在、全国の数多くの自治体が制定を進めている風力発電に係わる条例では、小型風力発電(小型風車)でさえ、住居から風車までの距離は「300m以上」としている自治体がいくつもあります。

そして協議会の委員からも「住民生活に影響するところだと思うので、慎重に検討していただきたい。」という意見が述べられていました。

私たち自治会もこのエリアの抽出については問題点が多いとして、エリアに隣接する3自治会とNPO夢未来くんまの連名で、7月24日に「熊地区地域ヒアリング(平成30年7月2日開催)で配布された資料にある「配慮・検討エリア(案)の抽出手順」についての意見書」を浜松市に提出しました。

ポイントは大きく3つあります。
  1. 浜松市のガイドラインでは「300m」となっているが、その根拠となっているNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「風力発電導入ガイドブック」によると、NEDOが想定しているのは2,000kW規模の風力発電施設(風車1基)の場合であり、複数基並ぶ事を想定していない。(風車が複数基並ぶ事によって騒音が遠方まで届く事になる)
  2. 浜松市が風車の大型化にも考えて「500m」とした根拠、具体的な風車の出力規模と基数についてを示して欲しい。
  3. NEDOの「風力発電導入ガイドブック」で示されている騒音基準の45dBは「住宅地」の騒音基準であり、山間部の静穏な地域であることを考えれば、40dBを騒音基準と考えるべきである。
この意見書に対する返答は、浜松市からはありませんでした。12月5日の報告会でもこの点について確認しましたが、浜松市としてはゾーニングに反映して欲しいという地元の意見として受け止めていて、特に返答する必要はないと考えていたそうです。

そして報告会の質疑応答を通して次の事が明らかになりました。
  1. 浜松市が想定している風車の大型化は2,500kW相当の風車であること。
  2. 風車1基の場合の騒音をシュミレーションしてエリアを抽出したこと。
  3. 騒音基準を45dBとしていること。
まず大型化についてですが、現在の風車の大型化(3,000kWや4,500kWなど)を考えた場合2,500kWが妥当かどうかは甚だ疑問です。この点について浜松市の説明は、天竜区の急峻な地形や、運搬用林道などの整備を考えると3,000kW以上の風車の設営は難しいのではないかという事でした。しかし今後もFIT法の買い取り価格が安くなることなども考えると、効率的な風力発電計画を考えた場合、風車のさらなる大型化は避けられないのではないでしょうか?

次に風車複数基でシュミレーションすべきではないかという意見に対しては、エリアに何基風車を建てられるのかは事業者の計画次第なので、具体的な複数基のシュミレーションは難しいという説明でした。しかしその場合でも、例えば1基の場合は「500m」、5基の場合は「800m」、10基の場合は「1,000m」というようなパターン化は出来たはずです。そもそも風車1基では事業が成り立つわけがなく、複数基を想定したものでなければ意味がありません。

その一方で、浜松市から意外な発言が飛び出しました。

各エリアについての調査報告会を踏まえて、来年2月に開かれる予定の第4回浜松市風力発電ゾーニング検討協議会では、風車の大型化が「2,500kW」で十分なのかどうかも含めて、設定した「500m」について再度検討するというのです。

一体どういうことなのでしょうか?
報告会で示されたエリアは一体何のためのエリアだったのでしょうか?

浜松市は具体的な明言を避けましたが、風車から住居までの距離を「500m」ではなく、それ以上離した数値で再度エリアの抽出を行うようです。

もしこれが本当だとしたら、浜松市は「風車の大型化と複数基配置の場合についての検討が不十分だった」ことになります。またどうして「報告会の最初に」この事についての説明がなかったのでしょうか?

疑問だらけです。

結局報告会は予定の1時間を大幅に超えて、2時間近くに渡って激しい議論が交わされました。

その結果、来年2月に開かれる風力発電ゾーニング検討協議会の前に、熊地区のエリアについては、再度報告会と説明会を開催するという事になりました。

そしてその後の検討協議会でそれぞれのエリアについての課題がまとめられ(浜松市の説明によると「カルテ作り」)、3月末までに発表されるゾーニングの最終報告のもととなるカルテが作成される予定です。

今回の報告会に参加して実感したのは、実際に風力発電からの影響が予想されるところに住む私たちと、ゾーニングを通して風力発電事業を誘致したいとする浜松市の間には、大きな溝があるということでした。地域の情報を少しでも多く集め、地元住民の人たちの意見を汲み取ろうという姿勢が、浜松市とアジア航測には足りなかったと思います。

エリアを抽出する条件として、風車複数基でシュミレーションする必要があるのではないかと問いただした時、浜松市から次の様な説明がありました。「(エリアを抽出する)データベースの風車の大きさや数のバロメーターを変えればいくらでも数値が出て来てしまうので、まずは1基の場合で環境省の指針である500mに当てはめてみて計算させて頂いた。」

いくらでも数値が出て来てしまうからこそ、「慎重に検討する必要」があったのではないでしょうか? 浜松市は私たちの生活をもっと尊重しつつ、ゾーニングを行うべきだったのではないでしょうか?

「机上の計算ばかりしている。現地を歩くべきだ。」という声が複数挙がったのも当然だと思います。

追記:報告会の質疑応答では、浜松市が騒音基準としている「45dB」についての妥当性については言及出来ませんでした。次回の説明会ではしっかりと協議したいと思います。

補足資料:風車の出力と大きさについて
・小型風車 出力19.5kW/ローター(羽)直径13m/ハブ(ローターを支える部分)の高さ20m/騒音パワーレベル52dB
・大型風車 出力2,000kW/ローター直径80m/ハブの高さ78m/騒音パワーレベル104.4dBA
・大型風車 出力3,000kW /ローター直径122m/ハブの高さ136m/騒音パワーレベル104.5dBA

*風車が大きくなり(高くなり)、騒音パワーレベルが大きくなればなるほど、遠方にまで騒音の影響が出ることになります。
◎写真で一幅◎
12月22日の夜、月と雲が織りなす幻想的な風景

















2018年12月24日月曜日

ゾーニング事業を巡る、知っておくべき「事実」その②

12月5日(水)の夜に地元のくまふれあいセンターで、現在浜松市が行っている「風力発電等に係るゾーニング導入可能性検討モデル事業」によって抽出された、熊地区の風力発電の候補地となりうるエリアについての「調査結果報告会」が開かれました。

現地調査と報告を行ったのは、浜松市から今回のゾーニング調査の委託を受けているアジア航測株式会社(以下アジア航測)です。

調査報告会開催の通知

報告の内容は大きく次の3点でした。
(1)7月2日に行われた熊地区地域ヒアリングの内容
(2)現地調査報告結果
  • 地すべり・崩落地に関する現地調査報告(8月2日〜3日)
  • 水源に関する現地調査報告(8月2日〜3日および8月7日)
  • 景観に関する現地調査報告(8月2日〜3日)
(3)ゾーニングに係わる今後の方針とスケジュールについて


まず7月2日に行われたヒアリングの問題点について述べたいと思います。
ヒアリングの目的は、風力発電事業への疑問や心配点などについての意見聴取と、(2)の現地調査を行うための情報の収集となります。

しかしながら7月2日に行われたヒアリングは、熊地区の自治会長のみの出席で、ヒアリング「当日」に資料を配付し、ゾーニングについての説明を行い、その場で現地調査のための情報を集めるというやり方でした。これでは調査に十分な情報を集められるはずがありません。

事前に各自治会長に資料を配付し、ヒアリングの意図を説明し、地元住民からの情報を集める時間を設けてからヒアリングを行うべきでした。

上記の調査期間を見ればわかるように、アジア航測は8月2日と3日の二日間で、この広いエリアの調査を完了した事になっています。地元の詳しい人のガイドなしに、たった二日間で地すべりや水源の調査などを行った結果、報告会で数多くの問題点が指摘される事になります。

熊地区の風力発電検討エリア(配布された資料から)

まずアジア航測は、ヒアリングで示された20数カ所の水源の内の一部(数カ所)しか調査していなかったうえに、その水源がそれぞれの集落にとって重要な水源なのかどうかも確認していませんでした。

また柴・沢丸の「簡易水道」(これも間違っていて、本当は小規模水道施設です。簡易水道と小規模水道施設では施設管理者が違うので、明確に分けないといけません)の水源が、本当は地下水であるにも関わらず、何故か夏に子供たちが遊ぶプールとなっていて、驚いたというか呆れてしまいました。また地下水の水源については「調査対象外」として、調査報告ではその影響については触れられていません。

プールが水道水源に!?(配布された資料から)

そして水源に関しての調査結果として示されたのが、「尾根付近の地形改変による水源への影響は比較的少ないと想定」というものでした。杜撰ともいえる調査から導き出されたこの結果について、どう納得しろというのでしょうか?

結局報告会の質疑応答の中で、アジア航測の担当者も「水源の調査に関しては不十分でした」と認めざるをえなくなりました(後日、再度水源を地元の代表者らとともに確認し、調査しなおしました)。

また景観についての現地調査も、広い熊地区でたった1カ所(!)を調査(熊小学校)したのみで、その選定理由が「国土地理院の地図から、この地区の中心的存在と判断した」からだそうです。

熊地区には、環境省の交付事業として整備された東海自然歩道や縄文時代中期の遺跡などもあり、また地元の人たちが大事にしている風景が沢山あります。それらを知ろうともしないで調査報告を「平然と」出してくる姿勢が信じられません。

アジア航測は自社で保有する航空機と最新鋭のセンサーによる空間情報の収集・解析を専門としていて、環境省が行っている風力発電に係わるゾーニング調査についても全国の複数の自治体から調査を委託されています。にもかかわらず、この現地調査の杜撰さはどういう事なのでしょうか?

今回の現地調査報告を聞いた限りでは、アジア航測が行った調査結果を信用する事は到底出来ません。

もちろんゾーニングに関する調査では、風力発電事業にともなう環境影響評価(環境アセスメント)で行われるような詳細な調査をする必要がない事は理解しています。しかしながらそのベースともなる調査がここまで杜撰では、ゾーニングそのものの「信頼性」にも関わってくるのではないでしょうか?

そしてもう一つの重要なポイントとなる、風力発電に適したエリアを抽出する基準、具体的には風車から住居までの距離の設定についても、今回の報告会では大きな問題となりました。

このエリア抽出の問題点については、次回の投稿で詳しく触れたいと思います。

◎写真で一幅◎
紅葉の中、年末に向けて道路清掃をしました

2018年8月23日木曜日

ゾーニング事業を巡る、知っておくべき「事実」その①

4月から5月にかけて、相次いで二つの風力発電計画の中止が公表されました。まず4月7日に秋田・由利本荘市の鳥海山麓に計画されていた風力発電事業断念が報じられ、続いて5月12日に九州の久留米市と八女市にかけて計画されていた耳納連山の風力発電計画の中止が報じられました。どちらも景観への影響が大きく地元住民の懸念が大きかったようです。

実は風力発電事業については、計画段階はもちろんのこと、施設稼働後もいろいろな形で反対運動が全国で起こっています。

平成29年7月17日のYOMIURI ONLINEの「風力発電の適地探せ…騒音、景観など考慮」という記事に以下の様な記述があります。

村山武彦・東京工業大教授(環境計画)(56)の調査によると、12年までの風力発電計画155件の約4割に当たる59件で紛争が起きていた。野鳥が風力発電施設に衝突する「バードストライク」の影響や、回転する風車の騒音、景観悪化などを理由とする反対運動が多く、うち30件は、計画の中止や凍結に追い込まれたという。

この記事によって、計画全体の4割で紛争が起きていて、その内の半数以上が計画の中止もしくは凍結になっている事がわかります。

紛争などについてはいろいろな原因が考えられますが、大きな理由の一つに、繰り返しこのブログでも述べていますが、最も影響を受ける事業区域近隣の住民への事前の説明や聞き取りが不十分であることが挙げられると思います。

自治体や地域で事業を誘致している場合を除けば、風力発電は環境への影響が大きいだけに、地域住民との間で、なんらかの問題が起こるのはむしろ当然といえるかも知れません。

そのような問題を出来るだけ避けたい、そして風力発電の導入をよりスムーズに拡大したいという考えから生まれたのが、「ゾーニング」によって自治体単位で「エリア」を色分けし、風力発電に適した場所を探し出すという手法です。既に海外では数多くの国でこの手法が導入されていて、風力発電事業を進めるうえで有効であるとされています。

環境省も平成28年度から「風力発電等に係るゾーニング導入可能性検討モデル事業」を立ち上げ、地方公共団体からの公募によってその事業を進めています。ポイントは大きく3つあります。

  1. 風力発電所予定立地では、地域住民等から反対を受ける「環境紛争」が発生しうるのでそれを未然に防ぐためにもゾーニングが有効
  2. 地域(地方公共団体)において、環境面だけでなく経済面、社会面も統合的に評価して、再生可能エネルギー導入を促進すべきエリア、環境保全を優先すべきエリア等のゾーニングを行う
  3. ゾーニングを踏まえた環境アセスメントの手続が円滑に進められることにより、審査期間を短縮するとともに、地域の自然的・社会的条件を踏まえた再生可能エネルギーの計画的な導入を促進する

基本的には風力発電事業を促進するためのものですから、この「ゾーニング」を行うことで「環境紛争のない」、スムーズな事業展開が進められるというわけです。

エネルギーに対する不安のない強靭で低炭素な社会を目指す『浜松版スマートシティ』を掲げる浜松市も、平成29年度のモデル事業に公募し、平成29年3月31日に環境省から選定を受けています。

そして平成29年度と30年度の2ヶ年かけて、浜松市全域(陸上・洋上)を以下のように「ゾーニング」することによって、エリア分けをし、風力発電事業に適した地域を探し出すとしています。このゾーニングの結果は、平成31年3月末までに公表される予定です。

1.まず浜松市全域を下記2つのエリアに分けます。

○保全エリア(自然環境や地形などから風力発電事業は不可なエリア)
○配慮・検討エリア(課題を解決すれば、風力発電事業は可能なエリア)

2.次に「配慮・検討エリア」の中で、様々な自然環境やエリアから居住地までの距離、そして景観などについて個別調査を行います。

3.「配慮・検討エリア」の中から、課題が少ないエリア、また地元関係者の理解が得られる可能性が高い地域を「モデル地区」として設定し(3〜5地区程度)、詳細な調査と風力発電事業導入に関する理解を促進するための「地域勉強会」を開催します。

4.そして、これらの調査結果を総合して、浜松市全域を以下の3エリアに分類します。

  • 保全エリア:自然環境や社会環境の観点から風力発電の立地が望ましくなく、積極的に保全すべき地域。
  • 調整エリア:保全エリア以外の場所で、かつ風力発電の事業性を見込めるが、立地にあたって調整が必要なエリア。
  • 適合エリア:環境・社会面から風力発電の導入に適合したエリア。ただし、導入にあたっては、地域特性を踏まえた課題を明確化する必要がある。

長くなりましたが、ここからが今回の本題です。

5月19日の投稿でも書きましたが、平成29年4月5日に浜松市のエネルギー政策課と自然電力株式会社(以下事業者)との間でうち合わせが行われます。その時のREPORTによると、うち合わせの内容は「主に環境アセスメント法の手続に入ること」と考えられます(下記写真をご覧下さい)。そのREPORTを行政文書公開請求して入手しましたが、ほとんどスミ塗りです。



実はこの時に浜松市から事業者に対して、重要な申し渡しがされています。

「今回の事業計画予定地域はゾーニングにおける<モデル地区>から除外する」

本来であれば、ゾーニング調査は浜松市全域が対象となっていることから、熊地区についても、本来は、他の地区同様に調査を行わなければいけないにも関わらず、既に事業が計画されており、地元も前向きであるのだから、「モデル地区」として扱っても問題無いのではないかと考えてしまったのです(ゾーニングの調査を省くという事です)。

浜松市がこのような「特別な」判断をしたのには、前回の投稿で明らかにしたように、事業者による「熊地区は今回の事業に対して前向きである」という説明が背景にあります。
事業者のこのような説明によって、浜松市は今回の事業を多少の課題があるとしても、調整可能であり、上手く進む案件として扱ってしまいました。

そしてこのような「特別扱い」ともいえる判断をしたにも関わらず、この事が上記のREPORTには残されていないのです!

幸いこの点については、浜松市も事業者も実際のやり取りについて認めているから良いのですが、うち合わせの内容については、「全ての事」に関して記録を残すべきです。

ここでもう一つの疑問が生じます。

どうしてゾーニングの調査結果が出るまで、事業者は環境影響評価の手続の開始を待てなかったのでしょうか? 事業者が先行して計画していたとはいえ、平成29年1月に、浜松市は環境省のゾーニングのモデル事業への応募を明らかにしていました。

そして事業者の営業内容を調べると、事業者にはゾーニング専門の担当者までいる事が分かりました。
自然電力には、国内における風力発電事業の従事経験者や、再生可能エネルギーに関するゾーニングについて学術的な専門知識を持つ社員が在籍しており、(以下略)(資料2:自然電力と徳島県鳴門市、徳島地域エネルギーによる環境省公募「風力発電等に係るゾーニング手法検討モデル事業」の共同提案の採択および調査開始について 2017年1月31日付け自然電力のプレスリリースから抜粋)
またこの鳴門市のゾーニングモデル事業について、同日のプレスリリースには次のような記述もあります。
自然電力株式会社は、徳島県鳴門市および一般社団法人徳島地域エネルギー(所在地:徳島県徳島市伊月町/代表理事:加藤眞志)と、環境省の公募事業である「平成28年度風力発電等に係るゾーニング手法検討モデル事業」に共同提案を行い、2016年8月に採択され、同年12月に調査を開始いたしましたので、お知らせいたします。 
このように事業者は、環境省のゾーニングのモデル事業に共同提案という形で応募するなど、ゾーニングについて熟知(その有効性についても)しているにも関わらず、浜松市によるゾーニング調査を事前に回避する一方で、ゾーニングの有効性を後ろ盾にして事業を進めようとしていました。

平成29年9月に公表された事業計画に伴う環境影響評価方法書で、浜松市が平成25年3月に「浜松市エネルギービジョン」を策定し、そのビジョンを実現するために、エネルギー自給率を高める再生可能エネルギーの導入を推進しているとし、事業者は次のように述べています。
環境省が公募した「平成29 年度風力発電等に係るゾーニング導入可能性検討モデル事業」にモデル地域として選定されている。
 このように、浜松市では風力発電等の再生可能エネルギーの導入を推進しており、早期事業化のための支援等をしている。(「環境影響評価方法書 第2章 対象事業の目的及び内容 2.1 対象事業の目的」)
この文章を普通に読めば、まるで浜松市が今回の事業を「支援」しているかのようです。
しかし実際には、浜松市はあくまで事業に対しては「中立」の立場であり、今回の事業を「推進」していた事実もありません。しかしながらこのような説明によって、今回の事業は浜松市も勧めている、と誤解した人が少なからずいました。

最終的に事業者も、今、浜松市が進めているゾーニングの結果を待って事業を再検討するとしたわけですが、本来であれば、事業者自らがいち早くそれを表明すべきだったと考えます。

正直なところ今回のゾーニングに関しては、浜松市と事業者との間で十分なコミュニケーションが取れていたとは到底思えません。双方が、自分たちにとって都合の良いようにゾーニングと事業計画を利用しようとしていたという見方は、うがち過ぎでしょうか?

次回は、今実際に浜松市が実施しているゾーニング調査の問題点について書きたいと思います。

◎写真で一服
集落を流れる清流。箒木山が水源です。

2018年7月6日金曜日

「浜松・天竜区の風力発電計画 中止含め再検討へ」

また一歩、中止に向けて前進しました。

2018年7月5日の静岡新聞の朝刊に「浜松・天竜区の風力発電計画 中止含め再検討へ」という記事が掲載されました。

2018年7月5日静岡新聞朝刊社会面から

既に当ブログの最初の投稿でもお知らせしたように、自然電力株式会社から熊地区連合自治会宛に、2018年4月20日付けで環境影響評価に関わる一切の手続を停止する旨の書面が送られて来ています。

今回6月29日に、自然電力株式会社が当自治会を含む3自治会宛に持って来た書面では、あらたに「中止」という言葉が加わった、一方踏み込んだ内容になっています。この書面については、あらためて別の投稿で詳しく触れたいと思います。

いずれにしても、2019年3月末までに発表になる、浜松市による風力発電事業に係わるゾーニングの調査とその結果が、熊地区における風力発電事業計画(将来的なものも含めて)に大きなウエイトを占める事になります。そのゾーニングについては、次回の投稿で詳しく紹介したいと思います。

当初今回の投稿ではゾーニングについて書く予定でしたが、新聞記事が掲載されたので、予定を変更しました。



2018年6月16日土曜日

風力発電事業計画のきっかけを巡る、不都合な「事実」

今回の(仮称)浜松市天竜区熊風力発電事業(以下事業)は、地元林業企業が自然電力株式会社(以下事業者)に声をかけたのがきっかけでした。

5月19日の投稿「風力発電事業の経緯」で今回の事業の経緯をまとめましたが、2017年4月5日に、事業者は浜松市に環境影響評価の手続に入る旨を伝えました。しかし、何度も繰り返しますが、この時点で、熊連合自治会に対して事業の説明や聞き取り調査は行われていませんでした。

どうして事業者は、一方的に事業に関する手続を進めたのでしょうか?

事業者は地元林業企業の以下の様な「説明」を受けて、環境影響評価の手続を開始したと述べています。(注1)

「最終的な地元合意は環境影響次第だが、環境影響評価を含む事業検討については熊地区連合自治会は前向きに考えてくれるのではないか」

しかし地元林業企業のこの「説明」が、結果として、様々な問題を引き起こす事になります。

① この「説明」自体が、なんら裏付けのない、地元林業企業の見解にすぎなかった
② 事業者は環境影響評価の手続に入るまでに十分な時間があったにも関わらず、この「説明」内容を確かめる事を怠った
③ 事業者がこの「説明」を浜松市に対しても行い、浜松市もそれを信用してしまった
④ 事業者は浜松市の環境影響評価審査会でも同様の「説明」を行った

もし事業者が環境影響評価手続に入る前に、熊連合自治会や事業予定区域に隣接する自治会に対して、事前の事業説明や聞き取りを行っていれば、その「説明」が熊地区の実情にそぐわないものである事がすぐに分かったはずです。

そうしていれば、このようなブログを立ち上げることもなく、双方にとって別のよりよい協力関係を築けたかも知れません。

しかし、実際にはその「説明」をもとに事業者は事業の手続を進めてしまいました。
嘘とまでは言いませんが、このような正しくない「説明」によって、何十億円もの予算が組まれ事業が進められてしまった事に、呆れるというよりも、恐ろしさを感じます。

この「説明」によって、上に述べた④の審査会ではどうのような事が起きたのでしょうか?

・平成29年度第一回環境影響評価審査会(平成28年6月6日開催)での事業者発言(会議録より

事業予定地周辺の林業企業が声をかけてきた経緯もあり、スクリーニングの結果もよかったため、今回は内陸部で計画した。」

「地元の反対などでできなくなる可能性もあるとは思っているが、調査や地元聞き取り等も行った上で、このエリアでは可能性があるとして設定している。

実際には地元聞き取り等を行っていなかったにもかかわらず、このような発言をしていた事自体が信じられません。

その後方法書の段階に入ってから、私たち自治会をはじめ、地元のNPOや個人の方々から数多くの反対や、事業を不安視する意見が提出される事になります。
その結果、審査会委員から、事業者の説明に反して反対の意見が数多く寄せられている事についての意見が提出されます。

・平成29年度第六回環境影響評価審査会に提出された「資料1:(仮称)浜松市天竜区熊風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する委員意見及び事業者見解

「2017年6月頃(第1 回審査会)に同風力発電事業のご説明をお聞きしたとき、地元住民からの要望(前向きな考え)もあって風力発電所を設置する、とのご発言があったと記憶しております。ところが、現状、特に地域住民の方々からのご意見を拝見していますと、温度差が発生しているように思います。その辺りの経緯をお聞きしたい。」

それに対する事業者見解は、次のようなものでした。

方法書住民説明会を実施したことで、本事業を知る方が増え、さらに、事業がより具体化された説明となったため、環境影響に対して懸念を示される方が多数出てきたものと考えております。弊社としては、引き続き定期的 に地域の方々との対話の場を持ち、ご懸念の点について、丁寧に平易で分かりやすい図表等を用いてご説明し、頂戴したご意見等を勘案して調査内容や事業計画を修正しながら、ご理解を頂きたいと考えております。」

 語るに落ちるとはこのことです。

事前に、地元聞き取りや説明等を行っていれば、このようなことになるはずがありません。正しくない情報を元に審査会の審議が進められてしまった面があることを、事業者は重く受け止めるべきだと考えます。

また今回、環境影響評価審査会の会議録を読み返していて気がついたのですが、2017年9月29日に、事業者は経済産業省から「再生可能エネルギー発電事業計画の認定」を受けています。しかし、そのことを審査会で報告した形跡がありません。浜松市には報告していなかったのでしょうか? とても不自然に思えます(この認定に関する詳しい内容はこちらの投稿をご覧下さい)。

事業者の「説明」が及ぼした影響は、環境影響評価審査会だけではありません。
浜松市が進めている風力発電に関するゾーニング事業にも影響を与え、浜松市に誤った判断をさせてしまう事になります。

次回の投稿では、今回の風力発電事業とゾーニング事業との関係を明らかにしたいと思います。

(注1:平成30年3月14日付けの自然電力株式会社から柴・沢丸自治会に対しての回答書から)

◎写真で一服
今年の初日の出の写真です。
"展望台"からの眺望は本当に素敵です。




2018年5月26日土曜日

風力発電の事業認定を巡る、知られざる「事実」

今回は、事業者である自然電力株式会社と、事業者に声をかけ今回の事業を誘致しようとした地元林業企業の関係について書く予定でした。

しかし先週から今週にかけて、私たちが驚くような事実が明らかになりました。

事の発端は、Twitterのツイートでした。
小型風力発電のFIT法(固定価格買取制度)の適用を受けるための事業認定が、風車一基毎に細かく分かれているという内容で、エネルギー資源庁のHPでそれを確認する事が出来るという事を知りました(注1)。(FIT法については、また別の投稿で触れたいと思います)

今回の事業については、4月7日に開かれた経済産業省の環境影響評価顧問会に提出された自然電力株式会社の資料(注2)から、既にこの事業について産業経済省の認定が済んでいる事は分かっていたので(2017年7月28日に申請、9月29日に認定取得)、実際にエネルギー資源庁のHPで、誰が、どの住所で認定を受けたのかを調べてみました。
エネルギー資源庁のHPで公表されているデータは下記の様になっていました。

■設備ID:DZ99022C22
■発電事業者名:自然電力(株)
■代表者名:磯野謙
■発電設備区分:風力
■発電出力(kw):26,000.0
■発電設備の所在地/代表住所:静岡県浜松市天竜区熊字箒木地蔵前727-6他、29の住所

ここで驚くべき事が判明します。

発電設備の所在地として認定された住所(全部で30)に、私たち自治会の住民も含め、この事業に反対している人たちの土地がいくつも含まれていたのです!

どうしてこんな事になっているのでしょうか?

これらの土地の権利者の方々は、事業者から事前に何の説明も受けていません。当然のことですが、事業者との間で譲渡/賃貸借等の契約も結んでいませんし、事業者に対して将来、土地の譲渡/賃貸借等を認める意向もありません。

経済産業省の再生可能エネルギー推進室がリリースしている「再生可能エネルギー発電事業計画の認定における設備の設置場所について(平成30年4月2日改訂)」(注3)では、認定申請において、次のように設備(この場合は風力発電)の設置場所の所有権を確認出来る書類の提出を求めています。


(1)地上に設置する場合
①土地の登記簿謄本(全部事項証明書)(申請日より3か月前から当該申請日までの間に発行された原本で法務局発行のもの)
②土地の登記簿謄本(全部事項証明書)に記載される権利者と設置しようとするも者が異なる場合
・売買契約書の写し、賃貸借契約書の写し、地上権設定契、権利者の証明書(参考様式はこちら)等※
・契約当事者双方の印鑑証明書(、申請日より3か月前ら当該までの間に発行された3か月以内の原本。ただし太陽光10kW未満の場合を除く。)


事業者は、「売買契約書の写し」もしくは「賃貸借契約書の写し」、または「地上権設定契」もしくは「権利者の証明書」の提出が必要になるわけです。
しかし事業者は、今回の認定申請時に②で必要とされている書類は提出していません。それなのに、何故、認定されたのでしょうか?

実は上記の申請条件が、事業者が申請した平成29年7月の時点では、②の書類の提出が必要ありませんでした。

これは驚くべきことです。

つまり、土地の権利者の意向に関係なく、事業認定の申請が出来たのです。
もちろん認定後3年以内に、「売買契約書の写し」もしくは「賃貸借契約書の写し」を提出する必要があり、提出出来ない場合には認定が取り消されるという条件が付いていたとは言え、明らかに、事業者が事業を進めやすい仕組みになっていました。

直接、事業者が事業申請書類を提出した関東経済産業局にも電話で確認して、次のような説明を受けました。

「平成30年4月2日以前の申請に関して、出力20kw以上の風力発電計画については、委任状もしくはそれに類する書類の提出がなくても、一旦認定し、3年以内に土地の譲渡もしくは賃貸借契約の写しを提出すればよく、今回の申請は法的には問題ない。ただし、3年経っても正式な書類が提出されない場合には、認定は取り消しになる」

今回の認定申請に関しては法律的には何ら問題はありませんが、事業認定についての法律である「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法施行規則」には、この事業認定の申請の際には、以下の書類を添付しなければならないと明記されています。

「当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電設備を設置しようとする場所について所有権その他の使用の権原を有するか、又はこれを確実に取得することができると認められるための書類

事業者が申請した時点(平成29年7月)では、認定後事業者に、権利を取得していない土地に関して、「これを確実に取得することができると認められるための書類」を提出するまでに「3年の猶予」が与えられていたという事になります。

事業者は、どうしてなかば強引とも思えるやり方で、急いで認定申請をしたのでしょうか?

それにも、現在の再生可能エネルギーをビジネスとして成り立たせている「固定価格買取制度(FIT法)」(簡単に言うと、発電した電力を一定期間決まった金額で買い取ってもらう事が出来る)が絡んでいます。実は現在、「固定価格買取制度」は年々買取価格が下がってきています。また「固定価格買取制度」そのものが無くなる可能性もあると言われています。

事業者は、「固定価格買取制度」の条件が良い内に早く認定を得たかったのです。そしてその申請のために、土地の権利者に無断で、勝手に住所を利用したのです。

これが自然電力株式会社の事業の進め方です。

法律的には問題ないとしても、このような事業の進め方をする会社を、どうして信用出来るでしょうか?

補足:気になるのは、ほぼ同時進行で事業計画が進んでいる(仮称)鳥取市青谷町風力発電事業です。エネルギー資源庁のHPで確認すると、こちらの事業についても既に事業認定がされています。認定申請に関しては、同じようなやり方をしている可能性があります。

注1:再生可能エネルギーの電子申請
注2:(仮称)浜松市天竜区熊風力発電事業 環境影響評価方法書 補足説明資料

◎ 写真で一服
5月6日のお茶摘みの時に撮影しました。
瑞々しさと、力強さを感じるお茶の新芽は、本当に綺麗です。



2018年5月19日土曜日

風力発電事業の経緯について

今回は、自然電力株式会社が計画している(仮称)浜松市天竜区熊風力発電事業の経緯をまとめます。
細かい項目も多く、少し長くなりますが、重要なポイントがいくつも含まれています。
  • 2016年
    • 11月18日 自然電力株式会社(以下事業者)が浜松市を訪れ、今回の事業計画の検討開始を報告。
  • 2017年
    • 1月11日 環境省が「平成29年度風力発電等に係るゾーニング導入可能性検討モデル事業」(以下ゾーニング)(注1)に係るモデル地域の公募を開始。
    • 2月23日 浜松市が上記ゾーニングモデル事業へ応募申請。
    • 3月31日 環境省が上記事業に浜松市を選定(全国で6地域の地方公共団体が選ばれています)。
    • 4月5日 事業者と浜松市の話し合いにおいて、自然電力株式会社が環境影響評価法の手続(注2)に入る事を表明し、また浜松市から自然電力株式会社に対して、上記ゾーニングモデル事業との兼ね合いについての説明があった。
    • 5月31日 事業者が「(仮称)浜松市天竜区熊風力発電事業 計画段階環境配慮書」を 経済産業大臣、静岡県知事、浜松市長へ送付。また配慮書についての公告と縦覧が開始される(6月30日まで)。
    • 9月15日 事業者が「(仮称)浜松市天竜区熊風力発電事業 環境影響評価方法書」を 経済産業大臣、静岡県知事、浜松市長へ送付。また方法書についての公告と縦覧が開始される(10月16日まで)。
    • 10月12日 熊地区で方法書の説明会が実施される。
  • 2018年
    • 1月12日 柴・沢丸自治会で個別の説明会が実施される。
    • 3月14日 方法書に対する浜松市長意見が提出される。
    • 4月13日 方法書に対する経済産業大臣の勧告が出される。
    • 4月20日 事業者が本事業に関する環境影響評価の手続を、ゾーニングの調査結果が出るまで一時停止する事を表明。ゾーニングの調査結果は、2019年3月末までに浜松市が公表予定。

このように大規模な風力発電事業に関しては、専門的で複雑な手続が行われる事になります。

そして繰り返しになりますが、2017年10月12日の説明会まで、当自治会をはじめ、事業予定区域に隣接する自治会には、事前の事業についての説明や聞き取り調査等は一切ありませんでした。

ここで「ゾーニング」という聞き慣れない言葉が出て来ます。当初は私たちも、何のことなのかさっぱり分かりませんでした。詳しくは下記の(注1)を参照して欲しいのですが、簡単に言うと、調査によって「風力発電に適したエリア」を探し出すというものです。

実はこのゾーニングについて調べていくうちに、私たちは事業の妥当性への疑問、そしてゾーニングと事業の関係性に不自然な点がある事に気がつきました。

次回の投稿では、いかに今回の風力発電事業が、「裏付けのない情報」と「事業者の杜撰な聞き取り調査」によって立ち上げられたのかを明らかにしたいと思います。

(注1)浜松市が応募した「平成29年度風力発電等に係るゾーニング導入可能性検討モデル事業」とは、平成29年度と30年度の2年にかけて、浜松市の陸上と洋上エリアを対象として、環境面だけでなく経済面、社会面も統合的に評価をし、風力発電事業の可能性のあるエリアの抽出と、そのエリアにおける課題の明確化を図り、風力発電について、地域の合意形成がなされた「推進エリア」を設定するための事業。

(注2)環境影響評価法の手続とは、環境省が定めた環境影響評価法に基づき、事業の実施前に、「事業者自らが調査し」、事前に環境への影響を調査・予測・評価することによって、事業による環境への影響を少なくするための対策を講じるための手続。「配慮書の作成」→「方法書の作成」(現在ここまで進んでいます)→「アセスメント(調査・予測・評価)の実施」→「準備書の作成」→「評価書の作成」→「報告書の作成」を経て、事業の認可の可否が判断されます。事業者は、この手続に約3年を予定しています。

◎ 写真で一服

5月6日に行われた毎年恒例の品評会用お茶摘み。
この写真の中央付近の山の上に、風車が見える事になります。
中央に小さく見える扇風機みたいなものは防霜ファンといって、
お茶の新芽に霜が降りてダメージを与えるのを防ぐためのものです。

2018年5月14日月曜日

風力発電事業の規模の大きさに驚く!

まず最初に私たちが驚いたのは、今回の風力発電事業の規模の大きさでした。

自然電力株式会社が公表した事業規模を図にしてみました。
文字と数字だけだと掴みにくいですが、こうしてみるといかに大規模なのかがよく分かります。



特に注目して欲しいのは、風車の基礎部分の大きさです。
排出される大量の土砂は、事業予定区域の谷や沢を埋め立てる事で処理されます。
そして大量のコンクリートを流し込み、予定では20メートルを超えるパイル(杭)を一基あたり8本も打ち込むそうです。

実は事業予定区域の直ぐ側には、隣接する複数の自治会の水道水源が多数存在しています。それは湧き水だったり、沢の水だったりします。私たちの自治会の水源は、事業予定区域の東側がら湧き出ている地下水です。
大量の土砂や打ち込まれるパイルが、水道水源に影響を与えない保証はどこにもありません。

しかし環境影響評価方法書で示された水環境の調査では、最も重要なこれらの水源についての調査が何故か選ばれていませんでした。

どうしてこのような事になってしまったのでしょうか?
私たちの生活にとって最も大切なものの一つである、水環境への影響を調べない調査では意味がありません。

前回の投稿(2018年4月30日)でも書きましたが、自然電力株式会社は、私たちに事前の聴き取り調査を行うことなく事業計画をたちあげました。
山に囲まれた私たちのような集落では、生活環境が都市部とは全く異なります。
繊細で複雑な自然環境を理解しようとせずに、このような大規模な事業を進めようとする事業者を、どうして信用出来るでしょうか?

次回の投稿では、今回の事業の経緯についてまとめてみたいと思います。



2018年4月30日月曜日

(仮称)浜松市天竜区熊風力発電事業計画一時停止!

柴・沢丸自治会は、浜松市天竜区熊地区の標高約500メートルの山腹に位置する小さな集落です。
豊かな水と澄んだ空気、そして鳥や虫の鳴き声に包まれた静かな暮らしが綿々と、何百年にも渡って営まれてきました。

2017年5月31日に、福岡の自然電力株式会社が、集落に隣接する北側の箒木山に(仮称)浜松市天竜区熊風力発電事業を計画している事が公表され、環境影響評価法にもとづく、環境影響評価の手続が開始されました。

しかしながら、事前に当自治会への事業の説明や、環境への影響などに関する聞き取り調査などは一切行われず、一方的に環境影響評価の手続が進められてしまいました。

現在(2018年4月30日)は、環境影響評価手続における「配慮書」の公告・縦覧→意見書提出を経て(2017年5月31日〜2017年8月25日)、「方法書」の公告・縦覧→意見書提出→経済産業大臣勧告書提出までの手続が終わっています(2017年9月14日〜2018年4月13日)。(手続の詳しい経過についてはこちらを参照して下さい)。

私たちは方法書の公告・縦覧によって具体的な事業計画を把握し、事業計画を詳しく調べれば調べるほど、環境への影響など大きな問題が次々と浮かびあがりました。

そして熊地区の10の自治会で構成されている熊連合自治会として、2018年3月12日付けで環境影響評価手続の一時停止を自然電力株式会社に申し入れ、2018年4月20日付けで、自然電力株式会社から環境影響評価に関わる一切の手続を停止する旨の書面を受け取りました。

事業の中止に向けて、ようやく一歩を踏み出す事が出来ました。

もちろん私たちも、これからの社会を考える上で再生可能エネルギーの重要性は認識しています。しかし、熊地区の持続可能性を妨げるような再生可能エネルギー事業を受け入れる事は、到底出来ません。

このブログでは、今回の風力発電事業計画を巡る様々な問題を明らかにしていきます。
私たちは、この事業が中止になるまで、反対の声をあげ続けます。